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東京高等裁判所 昭和30年(ツ)16号 判決

上告人 控訴人・被告 鈴木政吉 外一名

訴訟代理人 堀嘉一

被上告人 被控訴人・原告 藤本栄次郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用を上告人の負担とする。

理由

上告人両名代理人は「原判決を破毀する」旨の判決を求め、その理由として、別紙上告理由書記載のとおり主張した。

上告理由一に対する判断。

控訴審において訴の変更が認められていることは上告人主張のとおりであり、その場合には請求の基礎に変更がないことと、著しく訴訟手続を遅滞せしめないという制限はあるが、その外になんの制限もないことは民事訴訟法第二三二条、第三七八条の規定から明である。従つて請求の趣旨を拡張して訴を変更したような場合に、上告人主張のように、本来ならば、控訴審としては高等裁判所で審判を受くる事件が地方裁判所で審判を受くる場合が生ずることになるが、訴の変更として適法である限り、民事訴訟法は例外として認めていると解するを相当とする。故に、本件においては、被上告人が控訴審である東京地方裁判所で上告人主張のように請求を拡張したことと、訴訟物の価額が金三万円を超えるとの点は上告人主張のような関係になることは、本件記録により明であるが、東京地方裁判所は、控訴審として拡張せられた請求をも含めて請求全部について当然管轄権を有するものと解すべきである。故に、この点に関する上告人の上告理由は独自の見解にたつ理由がないものである。

上告理由二に対する判断。

本件記録を調べると、被上告人の昭和二十九年八月二十四日付の請求変更の申立書と昭和三十年二月十四日付の請求変更の申立書には裁判所の受付印が押されてはいないが、貼用印紙には裁判所の消印は押されている。右各書面はいずれも被上告人から受訴裁判所に提出されたことは、右各書面が本件記録に綴ぢられていることから充分に認めることができ、本件記録により明なように、被上告人が本件の口頭弁論期日に右各書面に基いて陳述しているのである。故に、右各書面に裁判所の受付印が押してないといつても、被上告人の申立にはなんの影響もなく、原裁判所が右申立に基いて判決をなしたのは元より当然で、民事訴訟法第一八六条になんら違反するものではない。故にこの点に関する上告理由も理由がない。

上告理由三に対する判断。

以上、一、二の上告理由に対して判断したように、原審の手続は適法であつて、上告人の裁判所において裁判を受ける権利をなんら侵害しているものでないから、もちろん憲法の規定に反するものでもない。

よつて本件上告は理由がないから、民事訴訟法第四〇一条により本件上告を棄却し、上告審での訴訟費用の負担について同法第九五条第八九条を適用し、主文のように判決する。

(裁判長判事 柳川昌勝 判事 村松俊夫 判事 中村匡三)

上告理由

一、原審は管轄権なきに拘らず裁判をなしたる 違法がある。

原審は東京簡易裁判所を第一審とする控訴審として本件の審理判決をなしたるものである。

第一審本件訴訟物の価格は金拾弍万七千百五拾六円である。(註、本件土地を含む一筆の土地及び建物(文京区役所建築課長新納時臣の証明書に因る))

固定資産税課税標準額 金二四九五、九二二円 総坪数(宅地)(原告所有)四一一坪 本件目的宅地坪数 一二坪 因て本件目的宅地の価額は七万弍千七百五拾六円 外に被告鈴木政吉所有の家屋の固定資産税課税標準価格は金五万四千四百円である、因て其の合計額は拾弍万七千百五拾六円となる。第一審に於ては上告人(被告)は管轄違の抗弁を提出せざりし為、擬制管轄権が生じたものである。(本件提訴の時には簡易裁判所の管轄は訴訟価格金参万円以下の訴訟)

扨て原審に於てはどうかと謂ふと被上告人は昭和三十年二月十四日付申立書に於て上告人鈴木政吉に対しては家屋の収去と共に宅地二十七坪の明渡を求め、上告人富川慶太郎に対しては家屋の明渡と土地十一坪の明渡を求めて居る。即ち土地に於て第一審に於て十二坪の明渡を求めて居るのであるから十五坪の請求の拡張である。この十五坪の価格は前標準に因て九万九百四十五円である、之を第一審訴訟価格と合計すると金弍拾壱万八千百壱円となる。

控訴審に於ても請求の変更又は拡張し得ることは論を俟たない処であるけれども其の請求或は拡張した請求は第一審に於ても管轄権ある場合に限る、本件の如く之を拡張した場合には簡易裁判所には其の管轄権がない、而も管轄の合意或は擬制合意は第一審に限るのであるから、控訴審に於て当事者が仮令(本件は合意ではないが)合意したからと言つて第一審が地方裁判所に属すべきものを簡易裁判所に属すべきものと認める訳には行かない、換言すれば事物管轄が地方裁判所を第一審とし控訴審を第二審とする場合には請求の基礎に変更なき限り如何なる変更拡張も許されるが第一審が簡易裁判所である場合第二審に於て其請求の拡張は自ら其の制約がある筈である。若し之を無制限に許すならば審級制度は根底から壊れてしまふ。従て拡張部分に付き原審は第二審裁判所としては管轄権がない訳である、尤も右申立書は受付せられて居ないので原審裁判所は幾何と認定したものかは不明であるが(尚後述。)

二、原審は請求なき事実に基き審理判決して居る違法がある。

請求変更の昭和二十九年八月二十四日付及び昭和三十年二月十四日付申立書は何れも裁判所は之を受付て居ない(受付の印もなければ貼用の印紙に消印もない)而もこの受付けてない申立書に基き被上告人(被控訴人、原審)及び上告人(控訴人、被告)は陳述して居るが受付なき申立書に基き陳述しても何等の効力を生ぜしめる筈がない(前述申立書及び昭和二十九年十一月九日付並に同三十年二月十四日付口頭弁論調書御参照)、この何等効力の生じない口頭弁論に基き原審は判決して居るのであるから結局請求なき事実に基き審理判決したことになり其の違法たるや論を俟たない処である(民訴第一八六条)。

三、第一項、第二項に述べた違法は何れも手続法上の違反であるけれども、憲法第三十二条に因り日本国民は裁判所に於て裁判を受くる権利を有するものであり、其の裁判と謂ふ中には勿論「適法なる手続法に基く裁判」と言ふ意味が含まれて居る、されば本件の如く手続法上の違反は又延ては憲法違反になる。

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